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2009年8月13日 (木)

ヴァンパイア来たる

感想文はデスマス調ではなく、デアル調なのをご了解くだされたし。

溜まった新聞の切抜きを月頭にしていたとき、
朝日新聞の紙内紙というのか「GLOBE」という企画紙面のコラムに
「いまどきの吸血鬼が映し出す米国社会」という文があった。
タイトルはこのようについているのだが、
吸血鬼とアメリカの社会相との結びつきが、
ほんの3行くらいしか触れられておらず、
酷くお粗末な切り口の内容だった。
ニューヨーク在住というこの執筆者は
翻訳が本来の仕事らしいのだが、
この内容ではライターとしては日本で食べていけないだろう。
海外にいるというバリューだけが重宝されているのではと思ってしまう。
一応編集者として文章で生活している方々の原稿を見てきた自分の、
とても素直な印象。
それはさておき、この記事の本質はつまり社会を写し掘り下げることじゃなくて、
著者が得意な本屋めぐりから、
アメリカ国内のブックランキングの紹介をするというもの。(それだけ)

で、フィクション部門でのベスト10内に
バンパイア小説が3冊も入っていますよ。
ということで、その内容が平明というより平板に説明されている。
つまり、吸血鬼とかホラーとか特に好きでもなんでもない人の文章。
読むことのドキドキとかこだわりとか何も伝わらない。
まぁ毎回違うジャンルをわたるらしいので、そんなものなのだろう。
そしてランキングに3冊も入ることの理由が3行。
>一説によれば、アメリカでの昨今のヴァンパイア人気は60年代後半の反体制運動に端を発しているという。
これだけ。
つまりタイトルに絡むコアの部分が出典も定かでない「一説」で済まされる。
いやまぁ、この筆者へ不満を募らせるためじゃないので、軌道修正すると、
60年代の反体制運動ってのは何よというのが
2000年代を生きる読者には必要であって、
それを考えるとベトナム戦争への反対運動、特に学生を中心とした流れから、
カウンターカルチャーとしての既成文化への批判と先鋭的模索を打ち出し、
それがロックや映画に表現の場を見出していく。
「イージー・ライダー」なんて音楽と映像とそしてあのやんちゃな内容といい、
まさにその体現だ。
これらをアメリカン・ニューシネマという思潮と見る。
文学の思潮としてもパラダイムの転換を促すものがある中で、
ヴァンパイアを疫病や悪鬼として捉えることとは逆の視線をもって
見られるようになった。
で、このヴァンパイアにおける転換点とは結局何なのかと思うと、
60年代に青春期をおくったアン=ライス女史の
「夜明けのヴァンパイア」(73年脱稿)なのだろうと僕は思う。
映画「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」の原作である。
ここまでの内容は、僕らの世代ではありていの話題だし、
少し調べれば簡単に転がっている。
でも、「GLOBE」の記事はここすら踏み込まない。
実はこの記事を読む前に
友人の環望ちゃんと昨今のアメリカでの
ヴァンパイア・ロマンス小説やドラマの隆盛について話したばかりだった。
彼との会話はライス女史の作品と萩尾望都の「ポーの一族」の
近似性についてや、著者間の後日談、
映画やTVドラマの傾向など微に入り細に入り、豊かで楽しいものだったので、
新聞の記事を余計に貧相に感じてしまったのだろう。

と、ここまでが前置きだったりする。
実は環ノンちゃんと会ったのは、
知人から映画の試写のお誘いを受けたからだった。
その映画は「30Days of Night」。
http://www.30days-night.jp/

30


コミック原作にしてサム=ライミ製作のヴァンパイア映画だと知り、
ならばと、ヴァンパイア漫画を絶賛連載中の環ノンちゃんにも、声をかけたというわけ。
自分的にはヘルツォーク監督の「ノスフェラトゥ」を10代のときに観てしまって、
二日ほど怖くて眠れなかったことがあるけれど、
「30days~」は、そうした伝統的な疫病や悪鬼としての要素を残しつつ、
淫蕩な部分は削り、現代的なアプローチをもって、
人間の上位に立つ圧倒的な異種により
本能と享楽に直結した殺戮をおこなう狩場に定められてしまった、
30日間太陽の昇らない極寒の街と人の悲劇を、
徹頭徹尾残酷に描いていく。
とはいっても「ミスト」ほど人間性への問いかけはない。
細かく見ると突っ込みどころもある。
しかしそんな筋道がこの映画にどれだけ力を与えるというのか。
周到で狡猾な狩りの惨状と、連綿と綴られる追われる者のあがき。
それでいいんだ。
窮鼠が決起した最後の反撃も
生還した者に決して勝利の美酒をもたらしはしないところが
さすが、サム=ライミ好みというところ。
(本人も監督をしたかったが多忙ゆえ叶わなかったそうだ)
実はOLが好みそうなベタベタしたバンパイア・ロマンスには
辟易していたので、
種としての獣性の根を忘れない猛々しい本作は、
まさにカウンターパンチであり、清々しかった。
恐ろしく、残酷で、そして陰惨。
忘れられていた(無視されていた)正統の力を持つ。
そして構図と色が美しい。
くすんだ陽の光を背景に黒い棺桶のようにたたずむ艦船、
吸血鬼の襲撃に修羅場と化す街の俯瞰、
彩度を抑えた銀色の深み、
先日公開されていた「スタートレック」もそうだったけれど、
こうした絵心のあるシーンに触れるだけで
映画の中に惹きこまれてしまう。

そして環望ちゃんとのもう一つの話題は
彼のヴァンパイア漫画「ダンス イン ザ ヴァンパイア バンド」のアニメ化決定。
一見、甘美な要素が目立つようだけど
ヴァンパイアもワーウルフも 種として業を負った骨太なお話だし、
その意味で、しっかりとした正統の香りを持つ。
ストーリィ構成には原作者本人がかなりアドバイスしているようで、
放映が今から楽しみ。
スタッフもなかなかに錚々たる感じ。
http://www.vampirebund.com/
夏のコミケは西館だし、MFブースのプロモーションを見に行こうかな。
そういえば彼自身も「ダンス~」の同人誌を出すそうだ。
そちらは東館なので難しいかも。(東ク17a)

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