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2010年7月 6日 (火)

評価と反省

今月のフラッパー誌も発売になったので、
自分の仕事での幾つかの誤算と言うか失敗について、
触れてみようと思う。
脱稿後、機会を見つけては友人に意見やアドバイスを乞うたりして、
出来る限り冷静な判断がなせるよう努めてみたけれど、
それでも精神的にキツイものは、自分で脱稿後に絵を眺めることもできないので、
不十分な側面があるのは、判っているつもり。
僕が以前に勤めていた職場は、
年度変わりに年間事業計画の実施精度や効果を「評価と反省」という文書にして、
つまびらかにする方法をとっていた。
今度の参院選には、前の公約たる「マニュフェスト」へそうした診断を加えて各党臨むべきだと思うのだけど、
TVなどでイイワケするにとどまるのは、首を傾げたくなる。
なので、僕は僕の仕事の「評価と反省」を文章で明らかにしておく。

この数ヶ月間で自分として悔いの残る仕事は二つ。
○iPadを視野に入れた電子書籍における短編小説へのビジュアルの寄稿
○フラッパー誌8月号の「虚数霊」第10話後編の原稿

前者は、入稿以降にその絵のファイルを二度と開けていない。
編集者にデータを送信後、電話をかけて「画稿料は半分でもいい」とまで言ってしまった。
市場の新しい試みに意気をもって臨んでいる相手と、小説を執筆された作者に、
充分応える絵を描けず、申し訳ないことをした気持ちでいっぱい。
【おかれた環境】
原稿の執筆環境は、
Appleの審査への対応や事業としての目論見で議論が重ねられた関係で
小説は二つのプロットのどちらを書くかがギリギリまで検討されたため、
最終的なテキストが僕の手元にきたのは〆切の数日前。
僕がとれた作業時間は、
F誌の連載原稿の脱稿をして、単行本2巻の最終作業に入る合間のたった1日、
それはこのビジュアルの〆切の前々日という有様だった。
編集部からは、「内容に厳密にリンクせずにイメージ先行でよい」
「ネタバレにつながるような描写は注意」「女性読者開拓につながるアプローチを」
という方針を伝えられていた。
女性読者というものを意識して、
普段の自分の漫画絵的なキャラの成立を組み替え、
塗り方のタッチも実線を含め柔らかいものにしようと、
それまで時々イメージは膨らませていた新しい試みでアプローチをしてみた。
しかしそれが迷走を招いて、収拾がつかないまま、
「作る」作業ではなく「取り繕う」作業にばかり時間を費やし、
結果、タイムアウトだった。
【評価と反省】
僕の最初の誤りは、充分にイメージを練る期間がないのに、
親しい編集者からの依頼や、新しい事業展開の目論見、著名作家との仕事という
欲や甘さから、仕事を請けてしまったことだ。
この数ヶ月、僕は殆ど休みらしい時間をとらず、1日16時間位の稼動で、
自分の能力的には100%近い出力で仕事を回し続けていた。
そこに20%以上の何かを足そうというのは、
通常運転が80%で動いていればこその120%という無理であって、
己の実力を省みずとはこのことだ。
この80%とという出力は、これから長くこの仕事を続けていこうとするときに、
意識していかなければならないことは身に染みた。
自分の甘さや欲に負けてはいけない。身の程を忘れてはいけない。
新しい試みは価値がないとは思わない。野心も大切だ。
でも時間が許さない中で、商業ベースで試すことは危険。
組む相手がある。作品は自分の名前で外に不出来をさらし続ける。
プロならば、人様にお見せするに足りるクオリティが維持できる思考と作業を第一に。
今回、僕の人体構造の把握の曖昧さも露骨に出てしまった。
慣れない方向からのポーズの描写が仇になった。
絵は慣れや癖で処理すれば、見えない穴が大きく穿たれる。
修練が足りない。もっと人を描かなければ。
表現の収拾がつかなかったのも、自分のまとめ上げる見識の不足だ。
もっとものを見て、考える時間を作らないと。
家にこもらず、外にでて世界に触れなければいけない。


後者は見る人が見れば判るが、
今回は「鉛筆」だ。ペン入れをしていない。
正確に言えば「下書き」をスキャンして使い、
そこに旧版のペン入れされた原稿も合成したハイブリッドな線画になっている。
つまり漫画家として、周囲からの誹りを免れない。
読者はもちろん、編集者や仲間の漫画家に恥ずかしい。
ただ、結果的に収穫もある取り組みになったのもまた事実。 ゆえに想いは複雑。

【おかれた環境】
今月の連載は10日近くまで単行本作業をしていた状況と
30P超えという頁量がいつもより多くなってしまったことが重なり、
かなりキツイ日程で進まざるを得なかった。
僕は下書きにおいて、背景や効果線、カケアミまで全部自分1人で描くスタイルなので、
時間の短縮は図れない。
自分のスピードで粛々と前に進むだけ。
しかし今回この下書きの最中に、扁桃腺が腫れて熱を出してしまう。
この1年以上、比較的体調を崩さずに過ごしてきたのだけれど、
この数ヶ月の働きづめで免疫力が低下していたのかなと思う。
最初は熱と眩暈で仕事が手につかず、あわてて医者に行き、薬を処方して貰うも、
熱は小康したが、薬の副作用か、意識が朦朧として集中力が維持できなくなる。
まともな線が引けず、何時間もかけて描いた絵が、
見直すと使い物にならない泳いだような線ばかりで、
泣きながら消しゴムで消す作業を何度も繰り返した。
(実際、薬の服用を断ったら、この朦朧感は消えた)
また、前号からネーム(絵コンテ)の作法を変えたのも仇になった。
それまで下書きと変わらないほど描き込んで、
演技プランなどを盛り込んできたけれど、
それでは時間がかかりすぎる、
また下書き作業で、トレス的な線というか表情に感情がこもらない、
描くことのモチベーションを維持するのが大変などの弊害が生じていたので、
もっと簡易化して取り組んでいたのだ。
でもそれはつまり、下書きの段階で相当の集中力を持って、
キャラの演技を考えて、それを絵にするという作業が発生することを意味する。
それが熱と薬のせいで叶わなかったのだ。
そのため、下書きのアップが通常のペースより数日遅れる。
セリフの写植のために下書きのコピーをとりに担当が訪問したとき、
「あと5日あればペン入れが済みます」という僕に、
雑誌の本当のデッドゾーンまであと4日もないと告げる担当編集。
下書きをじっと見つめる担当が一言「鉛筆でいけると思います」。
それで下書きをスキャンし、Photoshopのトーン曲線や明度コントラストをいじって
アップコンした状態を試して、それを雑誌サイズの縮小率でプリントしてみる。
「これなら大丈夫」という判断をもらい、
鉛筆で仕上げることに決定する。
ただ、ペン入れをすることを前提にした線であったので、
1日かけて可能な限り補筆。
データに上げた段階でさらに調整をし、トーン作業に入る。
【評価と反省】
スケジュール管理そのものの失敗はまずある。
単行本作業が二ヶ月間の連載休止期間中に出来なかったこと。
これはある意味で、
通常の連載時に必要な手数を入れた原稿を納められていないことを示している。
ほぼ全部の頁に手を入れた。
デッサンの修正からコマやキャラの差替え、トーンの追加のみならず、
まつ毛の本数や瞳の大きさ、くうたんの目のハイライトまで、作業は尽きなかった。
追加の頁も20枚近くに及ぶ。
単行本購入者へのバリュとも言えるが、それではダメなのかもとも思う。
そしてそれが押した結果が今回の状況を生んだ。
風邪という要素を加味しても、先の80%出力の件も絡めて、
僕は僕の仕事の適正化をしていかないと、
多分どこかで倒れてしまうと思う。
鉛筆での執筆という発想は、実は随分以前から
編集者との間では話題になっていた。
それは僕の下書きがすでに描きこみが細かく、
また迷い線が基本的にはないので、
このデジタルの時代なら可能だろうということだった。
確かに今の下書きでOKになるなら、実質1週間は短縮できるし、
作業内容や日程を緩和できる。
ただ、「虚数霊」はペンでの作品という位置づけが
旧版との絡みもあって自分の中にはあったので、
これまでペンで通してきた。
それが崩れたのは悔しく、恥ずかしい。
今回の鉛筆主線による原稿について、
編集部サイドや友人からは決して悪い評価ばかりではない。
キャラに関しては、これまで製版なのかデジタル化なのか
原因を突き止め切れていなかった「線の痩せ細り」がなくなり、
ふくよかなタッチを再現できるようになった。
F誌の連載では、前から下書きを消しゴムで消さないで入稿するなど苦心をしてきたけれど、
そうした求める雑味や艶が残されている。
ただシャープに表したい線は逆にかすれたり、太ったりして、弊害はあるが、
それはデータに仕立てた際に補筆すれば大丈夫と考えている。
背景はペン入れを前提にした程度の線でこしらえていたこともあり、
いささか弱く、曖昧な部分が存在しているので、まだ見極めができない。
(キャラもそういう絵は若干ある)
線の強弱やシャープさ、形状の明確な提示など
まだバランスを必要としている。研究の余地があろうと思う。
トーン作業はF誌ではPhotoshopで施しているけれど
鉛筆ゆえに線が閉じておらず、「流し込み」には不自由して
作業効率を阻害しているけれど、
これもスキャンをされる覚悟をもった鉛筆線で行えば
いくつかは改善されると思う。
そしてペン作業がないことで生まれる時間的な余裕で、
今後は相応しいトーンワークを試行し実施していけると思う。
また旧作のペン入れ済み原稿と鉛筆主線の原稿を合成したということも
線の種類を選んで表現していく上でよい実績を積めた。
「虚数霊」でこの実験をすることになるとは考えていなかったし、
商業ベースでの試行は避けたかったのだけれど、
得るものは大きかった。

今回で「虚数霊」の連載は一旦お休み。
散発的な読み切りスタイルのお話構成でつなぎつつ、
しばらく同社の新しい企画に加わっていくけれど、
今回の結果をどう見て、どう活かすかは
また編集部の評価や考えを含めていかないとならない。

漫画家に限らずだけろうけれど、
よい仕事をきちんと積み上げることが、評価と未来の自分を作るし、
なにより読者への礼儀。
試行錯誤で失敗はまたあろうけれど、へこたれずにやっていこう。

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