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2011年6月10日 (金)

君に届け 2nd Seasonに思う

保守的な二人だと思う。
日本から絶えてしまった言葉を体現するかのような女の子と
爽やかでまっすぐな男の子。
その折り重なる気持ちの物語。
二人はでも決して旧い過去のノスタルジーに支配された人となりではない。
今の時代を生きる人の気持ちをちゃんと重ねられる心の鏡だと思う。
風早はともすると、僕が一番苦手になりかねないタイプだ。
人の輪の中心で皆んなの気持ちを動かしていける人気と人望があり、
スポーツも得意、頑固でまっすぐで、一本気な性格の持ち主。
亡くなった僕の父親や大学の藤田和日郎先輩と似てる。
ただ風早が決定的に違うのは
周囲から与えられるような伝統的な価値基準や関係性、既成概念や風評などに
ものを見る基準を置かず、
少年的な瑞々しさを残した感受性から発する
フェアな目線と自由度の高い感覚を持って向かい合うことだ。
それは僕のようなマイノリティにも光をかざしてくれうる存在となる。
(しかしこんな精神的なバランス感を持った高校生はまずいないよな。もっと子供だよ)
爽子は素直にして貞淑、誠実で思いやりがあるけれど遊びの少ない精神構造で
結果的に努力家だ純粋だと評されることになるが、
今の高校生的には当然のごとく異端視され敬遠される存在だ。
1期はそれを一歩ずつ変えていく姿だったけれど、
2期では冒頭、恋愛を意識したがゆえに戸惑い。余計に臆病さが先に立って、
ネガティブな面が強調されてしまう。
それでも彼女をヒロインたらしめるのは、
天然にして愚直なるがゆえに、おかしみすら持って切り抜けるの芯の強さと、
何より彼女を構成する美徳や心のありようが
どんなにスレてしまった人にとっても、自分の中のどこかに必ず有している、
か細くあやういけれど大切なものの欠片に重なるからだ。
表層にある型や伝統ではなく、
「人」の中に通底する公約数的な大倫や美徳のようなもの。
だから人は爽子へ嫌悪があっても、どこかに自分を見出してしまう。
無自覚になっているその自分の心の具現(爽子)に触れることの感化。
それはまさにドラマの中で友人が繋がっていく様であり、
その友人の心境も行動も僕ら受け手の軌跡をトレスする。
それはもう保守ではない。
風早と爽子のそうした存在感の妙が、
昔の少女漫画のメンタリティの域を出ない韓国メロドラマの多くとは、一線を画す。
(まぁ儒教的封建制が根強い半島では旧いと見える感覚がまだリアルを占めるのだろうが)
ゆえに、古臭さなど感じられない。
まぎれもなく現代に求められ、今を語るための作品だ。
ちなみに僕は、二人の恋愛の動向よりも、
友人を求める爽子の孤独とあきらめと微かな期待に気持ちが動いた。
ネガティブで孤独だった昔の自分に重なって1期前半の6話までで、
散々泣かされてしまったのだ。

リリースされたDVDには収められなかったけれど
今期全13話の序章(Episode.0)は、くるみの視点で幕を開ける。
彼女の視点から前期を総覧することが目論見だけれど、
それは同時にライバルを認識する爽子との関係性を描く目的なり必然があるのだろうと考えていた。
「君に届け」の雑誌連載で風早との告白をピークと捉えて、
以降は蛇足と見る言葉も散見されたけれど、
少なくともそれは見かけ上のピークでしかなく、
物語の本質としては
風早との関係性だけが、爽子の持つ世界でも人間関係でもない。
恋愛の一つの成就は二人とその周囲に新たな関係と変化をもたらす。
その当たり前のことを爽子の視点でちゃんと意識し、気持ちの定まりを見出さねば
彼女という人物を語る上で片手落ちになる。
その代表格が親友達ではなくライバルのくるみとの関係だ。
爽子とくるみの人間関係をちゃんと語らないと
アニメとしての作品の軸足が定まらないというか
爽子の恋愛っていうものへの視野が浅くて舌足らずになってしまう。
人の痛みのわかる心根を持つ爽子らしからぬまま終わることになるので、
それでは物語としての真のピークを語らないことになる。
爽子とくるみの決着は並行して周囲にも新しい居場所と、
集団劇としての物語の大きな回答をもたらすのだから。
原作を大きく逸脱するものではないけれど、
初回のアニメオリジナルの前振りがあったからこそ、
くるみの存在がドラマにより有機的になったと思う。
また、文化祭、風早の爽子への告白時に反応する周囲の中で、
画面がPANする先で唯一背を向けていた妖精の女王の扮装がくるみであることは
その前段の会話の中で彼女のクラスが「七人の小人」、
白雪姫ではなくドイツの妖精譚をテーマとしたことで、容易に想像がつく。
原作でもあった構図だけれど、そこまでの解釈が与えられる扱いの絵ではなく、
これはアニメでのアプローチだ。
くるみはくるみの物語をこうしてつむぎながら、爽子と向き合うことになる。
そうして恋を成就させながらも、
失恋する喪失の重さも身に引き受けた形で
爽子は爽子らしい歩みを始める。
アニメは二人の初デートをエピローグとして付け加えたのは少し驚いたが、
その必要も理解できる。
とても納得性の高い所で物語を締めくくったと思う。

2期は作画のボトムが1期よりも高かった。
それは今回、IGが質の低い下請の制作会社(トランスアーツ)を使わなかったという指摘もあるが、
定かではない。
でも、最終回まで観て、作画の乱れが酷く気になる回は皆無。
1期のような頻出とは明らかに異なる。
2期はキャラのデッサンクオリティはもちろんなのだけど、
瞳や手の演技付けが印象的なシーンが多かった。
先日のマクロスFの感想で書き忘れたのだけれど、
マクロスではこの目の演技が全然出来てなかった。
それは最近の漫画やアニメで見受けられるけれど、
目のデザイン形状が設定的に「型」が優先されて、
表情が与えにくいものになっているからだ。
結果、瞳や目に変化がつけづらく形状固定のままで、
表情は眉や口で変化させることになってしまっている。
(自分の漫画では常に気をつけてるけどね)
(「オカルト学院」のマヤは逆に表情が柔軟で素晴らしかった)
「君に届け」ではそもそもの目のデザインが少女漫画の文法もあって、表情がつけやすいがため、
場の雰囲気を語るに、止め絵でも力を持つし、
アニメならではの瞼や瞬きのニュアンス、瞳の移動などをもって
例えば1話「バレンタイン」でのくるみの企みのある語りなど、十分な演出ボリュームを出せている。
また、手の表情に関して特筆すべきは9話「告白」だろう。
(9話は目の表情も豊かなんだけどね)
どうしても台詞の緊張感へ気持ちが向きがちになるけれど、
爽子の手の表情はその心理をとても伝えていた。
原作にもある絵だけれど、多くは引きのシーンの中での部分でしかなく、
もちろん動かないから漫画での印象としては強くない。
そこをアニメでは心を映すものとして意味をしっかり与えていた。
不安に震える様、力を込める様、恥らう様、
そして抱きすくめられているときに風早のシャツを探るように頼るようにつかむ仕草。
気持ちを伝えるということに
ここまで手の表情を尽くしたアニメのシーンは皆無だったのではないか。
僕は手や腕の持つ艶っぽさを再認識させられた。
8話「届け」Bパートの
原作の構図や構成を踏まえながら、解釈の入った絵コンテも見事で、
人物の心象を校舎など背景と絡めてとてもしなやかに語られていた。
「ガンダムUC」の古橋監督の本領発揮というところか。(1期第6話も担当)
2期の「動的」なピークはやはりこの8、9話にあったと思う。
逆にここへリソースを配分したためなのか、7話など新人がコンテ担ったが、
原作の絵に呑まれて、構図も演出も脆弱で芯のない腰砕けの回もあった。
そういう回は前述の目や手などの演技もまるでなくて喰い足りない仕上がり。
とはいえ、概ね1期26話の続く話として、健闘したと思う。
欲を言えばキャラの顔が回を進めるにつれ原作にどんどん準拠して
目鼻のバランスが可愛くなりすぎてしまったことが残念。
単純な可愛さではなく素朴な美しさが魅力のヒロインなので、
そういう造作の意味をアニメとしては大切に貫いて欲しかったな。
(つまり最近の原作の絵は可愛くなりすぎて疑問視してる)

2期で新録された音楽は、爽子や風早の苦悩と、
それを超え勇気を持って踏み昇っていくような実直な力を感じさせる曲が印象的。
1期の蕾がふくらんでいくような面持ちの楽曲と相まって、
ボレロのような2期のドラマにとても合っていた。
1期も2期も生楽器の編成は少なく、打ち込みと電子楽器で作られている様子で
音にいささかの深みのなさは禁じえない。
でも旋律として身に染みてしまったので、CDは購入したいとは思うのだけど、
ジャケットに流用された版権画とデザインがあまりに不出来で、なかなか購入に踏みきれない。
こうなったら自分でPCで作っちゃおうかな。
(いい時代だ)

漫画を描いたり読んだり、アニメを観たり、小説を読んだりしていると、
創作なんだけれど、その人物が実際にいるかのように
生き生きと自分の中で存在を強めてしまうことがある。
長い友人のように想いを注ぎ、その未来を思う。
(自分にとっての最初は宇宙戦艦ヤマトだった)
沢山のアニメや漫画が作られている中で
そういう相手になり得ることは希である。
アニメになって声と動きを与えられた「君に届け」の人物たちは尚更に
きっと多くの人にそういう存在になったと思う。
恐らくもうアニメでは風早と爽子の今後を語るべきものは作られないだろう。
(原作はそれを描き続けてはいるけれど、それもいつかは結ばれる)
でも僕らはもう、このアニメのエンドから風早と爽子の将来を自由に思い描くことができる。
それはとても幸福なことだ。
Kimitodo2

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