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2011年7月 7日 (木)

春日ひろさんの本がでます

昨年からずっと動いてきたこの企画。
5日入稿を済ませてきました。
遺稿集にして「自選」作品集。
長い闘病で、入退院を繰り返し、昨年11月にとうとう鬼籍に入られてしまったけれど、
亡くなられる前に彼女が掲載する作品を自ら決めてくれたものです。
余命を意識しながら編纂にあたっていた僕らは、
この本を楽しみにしてくれていた彼女の手に届けられなかったのを
悔やんでも悔やみきれない。
だって亡くなったその日は、僕らが発行日と思い描いていた
COMITIAの当日だったんだもの。
遺稿集じゃなく自選作品集にするんだって気持ちでいたのに、
色んな意味で間に合わせられなかった自分達の不徳を
皆んな胸に刻んでいたと思う。

自分達はどうしてもっと動いてあげられなかったのかな。

それはもちろん僕も連載を抱えていたし、
普段は勤めに出て、残業はもちろん、休日出勤が頻繁な人もいる。
その限られた中でやりくりしないといけない。
でも後悔は残る。
早世した仲間の遺作集を作ろうとする動きは
なかなかにその勢いを持続できず、中断することが多いのだと
幾人かの友人から聞かされた。
僕の中で焦りが募っていく。
僕や村田蓮爾ちゃんが編集に関わっていると聞いて喜んでくれていた
彼女の気持ちや期待はどこかに霧散して消えてしまうじゃないか。
そういうの嫌なんだ僕は。

もう構成も台割も整ったし原稿は揃っていてあとはノンブルを貼ればいいだけ。
そう考えていた僕は
停滞していた動きに気持ちが逸って「あとは僕が全部やるから」と、
残る装丁の検討や印刷所との折衝などを含め引き受けた。
連載の仕事もないし今なら集中して仕上げることもできる。
印刷会社の閑散期割引を活用して夏コミに出せるとも思ったから。
ところが蓋を開けてみたら状況は雑然としていて、
編集として判断するべき情報はそもそもの提供が不足し、正誤が入り乱れ、
仕事を進めれば進めるほどぽっかりあいた穴が見つかる。
「このままじゃ本なんて絶対にでないよ」僕はそう悲鳴をあげました。
どんな仕事でもそうだけれど
しばらく放置するとこういう綻びはおのずと生まれてくる。
人の記憶や作業のあいまいさが産むのです。
それを避けるためには、
とにかく地道にこつこつと作業の状態を確認し整えておくこと。
「~つもり」「~のはず」は風化の根なのです。
今回、その風化は本当に驚くほど激しいものでした。
こういう大掛かりの本の編集には相応のスキルと時間が必要なので
いたしかたないことなのかもしれまん。
でもそれで慰めあっても本は出ない。
編集作業に携わってくれた皆で状況を再度洗い出し、確認し、
役を担った者が掌握し、周知、指示を出す。
それをひたすらにする2週間だったという印象です。
僕は編集という仕事ではもちろん愚痴もこぼすけど
酷いこともきついことも相手に平気で言う。
大学時代にSF同人誌を作っていたときの仲間との関係そのまま。
問題や失敗がなんだかきっちり指摘するのは、過ちを繰り返さずに、本を出すため。
言い訳は聞くけれど、言い逃れは容赦しない。それで逃げても本は出ない。
不愉快な想いをすることもあったろうけれど、
皆が本を出すという大切な目標を共有していると思うから、
春日さんの命に間に合わなかったという悔しさを感じてると思ったから、
躊躇なく言葉を交わし、編集という役をいただいて前進に努めました。
そして原稿は昨日の昼についに完成。
みんなお疲れ様でした。ありがとうございました。

印刷会社にも救われたように思います。
担当してくれた営業さんの印刷技術や紙、色、その他の知識がしっかりしていて、
限られた予算の中で、創意をもって工夫と検討を何時間も重ねられる。
趣のある本を印刷したいとお願いする身として心強くもあり、
嬉しくありました。
(なにせ仕様は複雑だし、原稿もデジタル、アナログ混在、サイズもまちまちなので)
印刷会社は株式会社 緑陽社。
同人誌の印刷の美しい仕上がりでは定評のある技術のある会社。
僕はもう10年以上前に、ここの社長さんに講演をお願いしたことがあります。
僕のこともよく覚えてくださっていました。
村田蓮ちゃんと僕からそれぞれこの本について相談を受けていて
それがこの本でつながってびっくりしたと破顔なされました。
仕上がりがとても楽しみです。

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本の名前は「Pink Flower」。
最終的な仕様は
402ページ。
モノクロ1色、2色刷り、フルカラーで誌面を刷ります。
本文の紙は美しい再現性を有したものに。
外装は印刷会社さんも思わず笑った、変わった紙を更にひと捻りして使ってます。
加工も箔押しとは違ったウェットなボリューム感のあるものとか
遊び心を忘れずに作ったつもりです。
それでこそ同人誌だし、
手にする本の量感とか楽しさを意識してた春日さんには相応しいはず。
装丁は村田蓮爾ちゃん。そのお手伝いは僕。
アニメの放映を控えて忙しい折に何度も家にお邪魔して、お付き合いいただきました。
細かな作業に色んな人が関わりました。
そんな本です。
ようやっと届けられます。

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来る夏のコミケット80にて初売り。
場所は春日さんのお身内のサークル「B5同盟」、
三日目の日曜、東"ウ"-52bになります。
もちろん僕や村田蓮ちゃんのスペースでも扱いますし、
有志の方が置いてくれることになりそうです。
続くコミティアにも出展することになると思います。
(詳報はまた改めて)
旧い作品もありますが
作り手の創意や愛情は冷めることなく伝わってきますし、
何より彼女の独特なキャラクターが進化する様や
群集劇の巧みさなど受け取るものはとても多いです。
彼女はもういなくなってしまったけれど、
そうしたバトンを誰かにつなげていって貰えたらなという想いです。

W243
でも寂しいものですね。
はがれたトーンの修正など彼女の原稿へ手を入れているとき、
手で描かれた生のその線を目で追っていると
描き手のその時の気持ちみたいなものをやっぱり感じてしまいます。
僕も漫画家ですから。

朝、つけていたラジオから流れてきた曲。
ロンドンメトロポリタンオーケストラの有志が集まって
日本の被災地の人々へ向けた演奏家としての気持ちだそうです。
http://esashioiwake.com/
昨日までの仕事を終え、部屋を片付けてた手をとめて
ボリュームを上げて、このレクイエムに聴き入ってしまいました。

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