ジャケットデザイン
連載作画真っ最中だけど、小休止を兼ねて日記を。
今年の正月、三が日にやっていた仕事のことを、ここに書こうと思う。
僕の高校の同級生の松井秋彦が
JAZZのコンポーザーであり演奏者であるのは触れたことがあるかもしれない。
http://www.graphic-art.com/cpj/
漫画同好会の部室の隣にあったフォークソング同好会からいつも聞こえてくる、
フォークソングとは似ても似つかない(笑)不可思議なギターのメロディを
奏でていたのが彼だった。
当時、JAZZ少年って呼ばれていた松井と知り合い、僕はJAZZに目覚めた。
当時の日本の歌謡界(当時はJ-POPなどという分化はしていない)は
アイドル歌謡が歪な急伸をして、
ありえもしないほど下手な歌手が人気を誇っていた。
その悪しき血脈は今も商業性の名の下に受け継がれているけれど
今のアイドルのほうが余程、歌は上手い。
人様の前に出て披露するレベルにおよそない音と声の洪水。
世界の音楽業界的に見ても正に異常とも狂気ともとれるその艦橋の苦痛に耐えかね、
クラスルームでそうしたアイドルの存在に否定的な発言をした僕は、
やはり当然というか、クラスの女子からは総すかん。男子からも疎まれた。
もっと多様で、豊かで、技術と理念の上にさらに自由さと楽しさをもった音楽があるはず。
その中で出会ったのが彼の音でありJAZZだった。
ロックは「生き方」だと言う。
僕はJAZZも「生き方」だと思っている。
この歳になるまで僕はそう生きてきたつもりだ。
定型化に警鐘を鳴らし、変化に常に向き合う心。
地道な積み上げの上にこそ成り立つ、即興性の価値と意義を尊び、
仕事とはその積み上げと即興性の延長にある
他人の能力や感受性とのセッションだと思ってきた。
当然、それとは考え方も波長も異なる人はいるわけで、
常に調和がとれたハーモニーを奏でられてきたわけではないけど。
僕はその生き方をしてきて、自分の中や外の色んなものを壊してきてしまったけれど、
それでも揺るがず今も大切にしている。
この「生き方」に結び付けてくれた彼は自分にとっては恩人なのだ。
松井は高校卒業後、渡米してバークリー音楽院大学に入学。
数年後、市の広報誌で、
卒業・帰国して音楽活動をしている彼の取材記事が載ったのを読み、
日本に帰ってきていることは知ったものの、
そのあとはどうしているのか消息を追いきれず、
都内で近隣にあるJAZZ関連のライブハウスなど出入りしたりして彼の活動を尋ねていたが、
ああいう店は演奏者の流れのようなものがあって、
そこに交わらないところには、JAZZ専門のライブハウスであっても、結局なにも情報がないのだ。
そうして10年以上、
彼との再会はネットの母校のコミュニティでだったのがまた不思議なものだ。
ここからやっと本題。
(ああ、ほんとに僕はTwitterには向かないね)
これまで彼のアルバムを購入してきて、
どうにもデザイン的にアレレ?な部分がある作品を見かけるので尋ねたら、
時折は彼が自分でジャケットからインナーまでこしらえていると知った。
(もちろんデザイナーが入っているものもある)
「だったら、僕がデザインするよ!」
と以前に口約束をしていたのだけど、それが昨年末に現実になったのだ。
その頃は、「ヤマト2199」の設定作業とそのコミカライズの準備の真っ最中で、
実にきわどい状況だったのだけれど、
JAZZのジャケット、インナーデザインっていう昔からの僕の夢と
その恩人たる彼のアルバムなのだから、断わる理由はどこにもない。
かくして、正月元旦から作業をして約1週間。
(だから今年は年賀状を出せなかったのだけど、そうれはもう赦して)
それは完成した。
そこからJASRACのコードなど取得して、プレス屋さんに回って
そして事情はよくわからないけれど、
けっこう時間が経過した5月17日にそれは発売になった。
http://www.amazon.co.jp/dp/B007R16EL4
http://www.graphic-art.com/cpj/index.php?option=com_content&view=article&id=12&Itemid=12
デザインに使用した写真は彼が海外の演奏旅行などで撮り貯めたもの。
自身で選んできたものを素材として、僕が採用した。
ミックスダウン前の音源や、彼の考え方を聞いて、イメージを固めていった。
"Fjord Sound”というユニットレーベルが示すように、
氷河の削った土地とその抽象的なイメージを軸に置いているので、
僕は自分の好きな「ECMレーベル」の理性的で硬質なデザインを念頭にしてみた。
そもそもの素材写真がとても良かったので、
キレイな仕上がりになったと思う。
(ただテキスト量の多さは四苦八苦したけど)
1点残念なところがあるとしたらジャケットのタイトル文字。
印刷時のインクの沈みこみを考慮しきれず、また色校まで管理できる状況になかったので、
狙いが上手く繁栄されなかった。
ここに載せる画像は僕の元データからのもの。
タイトル文字が左右にプリズムのように光を放ってぼやける処理をしたのだけど、
印刷時にかなり潰れて判らなくなってしまった。
北欧の冷えた空気の中の光のイメージだったのに残念。
(松井ゴメン)
ジャケットの鏡面になった雪山は特に色合いを加工せず、原版のまま。
水面に反射したほうが陽光の赤が強まって見えるのは、面白い。
天地を変えたとたんに風景は印象を一変し、新しい表情を見せる。
色は撮影者の思惑のその先を見せてくる。
僕にとってはいかにもJAZZの魂だなぁっていう写真だ。
この写真、山の形が人の横顔に見えるのも面白い。徳間文庫のマークにどこか似ている。
インナーは、今回、歌モノなので
英語詩の対訳を併記する形になっている。
CD盤面の上にある模様はブータンの民族意匠。
こういう模様は決してPCのパターンの産物ばかりではない。
楽曲自体は人それぞれ好みもあるので
絶対買うべきとかは言えないけど、もし興味があればどうぞ。
彼の作品はwebを辿るとFACEBOOKやyoutubeで試聴することができるはず。
人が聞いていて安心するような所謂「定型の節回し」は存在しないから、
かなり聴き馴染みのない音楽だと思うw
ちなみに拙著「虚数霊」2巻の最初のエピソード「暗い日曜日」編は
彼に触発されて描いた一篇。
音楽的な指南も受けたけれど、
亡くなったバークリー卒業生の話は実話がベースで、
その死について、当時学校の雰囲気はどうだったかとか
そういうことも教えてもらった。
| 固定リンク