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2012年10月 3日 (水)

言葉と気持ちと

からくも脱稿し、月が明け、たたんだ会社の件で関係各所ををあちこち巡ってきた。
そのあとメーカーを経営する親しい社長さんと話をした。
漫画を描いている時間とはまったく異なる、
多くの人の言葉と思惑の洪水に身をさらす時間。
自分はかつてこの中にいたのだと思い出されると同時に、
その時の感覚も甦ってくる。
この二日間は確かに僕は以前の「社長」だった。
お酒を酌み交わしながら、
若い社長さんからは企業後継者としての苦しい胸の内をたくさん聞いた。
頑張っている。動いている。そして迷っている。
自分が拠り所にする筋道を探している。
それを聞いてくれる人は周囲に決して多くない。
僕はそれをすでに過去形にしてしまった人間だけれど、
彼は今まさにその場にいる。
あのときの僕に社長仲間がそうしてくれたように、
話に耳を傾け、ねぎらい、気持ちを重ね、
そして考えを伝えた。
彼の会社は僕の会社よりよほど立派で、社会にも必要な存在だ。
僕の言葉で彼の行動に勇気と軸が添えられたならと思う。

もどかしく、苦しい心根の言葉をたくさん聞いて帰宅をしたら、
訃報が届いていた。
野上武志さんのスタジオで僕と一緒にお手伝いをしていた
漫画家の黒葉 鉄さんが急死された。
自著の他にも神崎将臣さんや青池保子さんの作品のお手伝いもされていらしたので、
長いキャリアと現場に裏打ちされて、
色々と楽しいお話を聞かせてくれた。
僕のまかない料理をおいしそうに食べてくれた。
そういうことが思い出されて、涙がこぼれた。
野上さんから電話で事情を聞いていても、泣けてしまって僕は言葉にならない。
一緒に仕事をしていた人が亡くなるって感覚は
こんなにつらいものなんだな。
以前、ある人の漫画連載に助っ人で急遽呼ばれたことがあった。
その時は予定していたアシさんの体調不良ゆえのピンチヒッターでという事情だったのだけれど、
アシさんを心配したその漫画家さんが
知り合いに様子を見にいってくれるよう頼んだら、
そのアシさんが自宅で亡くなっているという連絡が飛び込んできた。
僕は傍らで絵を描きながら、そのやりとりを聞いていたのだけれど、
あのとき、とてもショックを受けていらした漫画家さんの気持ちも
この僕の気持ちと同じだったのかな。
こんなにキツイことだとは思わなかった。

残念だとか、ご冥福をとか、そんな気持ちに全然なれない。
理解できないし納得できない。
ホントでも嘘でも、
黒葉さんがいなくなったという言葉だけで
その悔しさと喪失感から涙がでる。
昨夜は泣きながら眠ってしまった。

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