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2013年7月 6日 (土)

言の葉の庭

平水指の割蓋のうえに袱紗で作った蝉を飾る。
梅雨の明けた日。茶道の稽古の帰り。
出かけついでに観る機会を作れないままだった映画に行った。
新海 誠監督の最新作「言の葉の庭」。http://www.kotonohanoniwa.jp/
5月末からの上映だから、わりと長く小屋にかかっている。たすかった。
土曜日ということもあってか、席はしっかり埋まっていた。
圧倒的に男子比率高しw
超問題作だった前作「星を追う子ども」http://www.hoshi-o-kodomo.jp/top.php
以降は、数本の企業広告を手がけていたみたいで、
うち、野村不動産のものは、池袋のHUMAXでは本作と同時上映のような扱い。
大成建設の方は随分前にwebで観た記憶がある。
「星を~」ですっかりあっちの人になってしまったかと幻滅にも近い心配をしていたけれど、
それとは違う。またこれまでともちょっと異なるところに
小気味の良い映画を作ってくれて、
僕は心底楽しめた。
日々の中でもやもやとわだかまったものを、映画を通じて外に吐き出す。
まさしくカタルシスというものが僕の中にあったと思う。

都会でも雨の気配を感じることができる。
水を媒介にして周囲が匂い立つときがそうだ。
街中の公園の中では緑の濃密な香りを孕んで、
とりわけ鼻腔を刺激する。
気化熱で冷やされた空気の中でそれは甘く、
なにかの水菓子に触れたかのような青い感覚を思い起こさせる。
雨粒から、水滴、雫、水紋、水はさまざまな表情を見せ、
揺れる木々も葉も色と光と影を与えていく。
雲は低くしかし滲む濃淡に即興音楽のような複雑なリズムを聴かせ、
煙る街は猥雑さを戒めるようなトーンを与えられ、
人の居場所としての存在を意味し始める。
僕が絵に描きたいなと思う愛しいものが溢れた世界。
ノスタルジックに田園風景を尊ぶことなく、
人も街もまた自然なのだと説いてくれる。
そしてそこが二人の場所。

高校生の少年は無邪気なままではいられない境遇に己の方向を探し、
女は周囲の駒が詰んでしまった中で、身動きができないまま
自分の一歩を探している。
少年の若い牡鹿の肉体を感じさせるラインはまぶしいし、
心ならずも手弱女(たおやめ)の気を宿した女も美しい。
それぞれが思う距離を大切にしながら、
二人の逢瀬は反射する緑色の二次光源の面積の中に透けていく。

物語はいくつかの物語的なからくりやプロットを与えられていくのだけれど、
大事なのはその水と緑の空間に二人がいた瞬間と、
溢れ出した涙の雫が互いに向けた素直な歩みであったこと。

1時間に満たない作品だけれど、
僕はこういう作品にずっと憧れを持ってきた。
漫画で描けたらって思ってきた。
単行本1冊程度で収まる、空気と場と間と小さな心のうずきを描き止めた話。
多分実写映画じゃだめなんだ。
実写ではもうなかなか撮れる人がいない感じがする。
カメラは進歩し便利になり、安価にもなってきているけれど、
逆に丁寧に画面をこしらえる感受性が痩せてはいまいか。
ライブ感とか奔放性とか言葉に頼った方便だ。
実写の即興性とは
レンズも被写界深度も光も色も考え抜いたその先に写り込む何かが与える
神々しい瞬間だ。
そうした積み上げを「AUTO」のモードの向こうにおいてきてしまったようなものには
凝らした想いが宿っていない。
絵はそれができる。それは描くから。
この映画は、というか新海作品のそれはどれもだけど、
まるで私家版のような
気持ちを注いだ絵が、動きが続いていく。
特に本作の絵の背景の主張はいつになく密度が高い。
くどそうでいて緩急もあり、
人物のデザインの疎の感覚と面を意識した彩色のバランスが
絵の構成を落ち着かせている。
(ある意味で水木しげるの大ゴマの絵みたいなバランス)
僕の理想に近い絵の連なりと均衡が垣間見えた。

ハナザーさんの声も良かった。
声質の可愛いさを出すことより
くぐもった濁りを与えることで、主人公の心象を静かに表し続けていた。

不知の病で死んだり生きたり、100回泣いたり、泣かせたり、
タレント事務所のゴリ押しの配役、OL御用達のタイアップ、
安いテレビドラマの延長みたいな陳腐な脚本、
日本のもうどうしようもなく馬鹿らしい恋愛映画はうんざりで、
静かで品格のある恋愛の映画が観たいなって思っていたので、
それが満たされたように思う。

梅雨は明けてしまったけれど、
僕がよくCDやMP3の音源を再生する時に、一緒に開いているweb。
http://www.rainymood.com/
好きな音の中に閉じこもるのでなく、
心を外に開いていくために必要なもの。

ということでサントラ付きのBDも早速購入した。
連載の次回脚本も出来たし、
まだクライアントからの確認の連絡はないけど、明日はイラスト仕事をいよいよ進めよう。

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