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2017年9月21日 (木)

自分の航路

不思議に忙しい。
相変わらず収入は乏しいのだが、忙しい。
まじめに貧しいのだが、自分はこれも不思議と慣れている。
それにわずかでも仕事があるので、そう儲けずとも、
一人こつこつと机に向かっているだけゆえ、出費もそうない。
そんな貧乏を心配して、
儲け話を持ちかけてくださる人もいるのだけど、
僕はそもそもお金儲けに興味がない。
「中国嫁日記」の井上純弌にも以前言ったけど、
僕が漫画や絵を描いている究極的な目的は、
友達が欲しいから。
こんな僕の絵とか言葉を理解してくれる人と巡り会えるように
そう思って描いているので、
つましく、雨風しのげる暮らしができれば、それが幸福。
描いた作品を見て人が喜んでくれるのが好き。
漫画を踏み台にしてお金とか所有とか、権威や名誉といった
井上君が求めるようなものを自分は欲してない。
もしそういうものが欲しかったら、
社長の時にもっと満たされていたはず。
でも自分と重ねられるものが何もなくて、人生で一番悲しい時間だった。
親しい友人なら知っていること。

ヤマト2199の連載も諸般の事情でしばらくお休みとなり、
身体を壊す結果になったような異常な忙しさからは解放されたけれど、
自分も若くはないし、
漫画を描く身体とリズムを維持していきたいと思う。
細かいお仕事で時間を使うばかりではなく、
自分はどこに行きたいかを見定めていかなければ。

夏からこっち、2202のモニター設定の作業を進めながら、
並行して、同作のノベライズの絵を描いていた。
第2章を試写会で見て、一番ショックだったのは
モニター表示が僕のデザインしたものとは
全然違うものに変わってしまって、
大げさで筋道の通らない形に多くがなってしまっていたこと。
あまりのことに、試写会では物語の内容が頭に入ってこなかったほど。
2202は前作と違って、細やかな考証が多くないので、
モニター設定の僕の段階で天文地理や物理化学、工業技術から組織管理まで調べ、
1つの表示に、それこそ漫画の何倍も手間と時間を費やして、
それをヤマトという作品の理解に立ってデザインをしているのに、
画面には派手なだけで意味も何もない表示が赤く点滅してる。
さすがに耐えられなくなって、
総監督には演出意図と合わないのなら、再デザインするから
せめて連絡を欲しいと告げてしまった。
大好きなヤマトへ公式に関わっているのに、自分の無力を感じる。

ノベライズの挿画もなんとか脱稿した。
皆川ゆかの文章は読んでいてとても楽しかった。
映像では汲み取れず淀んでいたものが、すっと道筋が出来て流れていく。
僕の描いた漫画のようなスタイルではなく、
堂々と2202の正道を歩む気概を感じる。
本として文芸の香りのある姿勢を感じたので、
カバー画も挿画も、昨今のラノベ風なタッチとは異なる考え方で臨んだ。
自分では頑張ってよいものに仕上げられたと思う。
大学時代からの友人の仕事に、今こうして助力できるのは嬉しい。
Fix
また、同時にこの挿画の仕事は、
スタッフとして関わりながらも抱いていた
2202という作品への自分の中の未消化な不満を
自覚とともに昇華する機会をいただけたように思う。
新しいヤマトの物語として楽しんでいるのに、
絵作りやデザインの端々に納得が出来てない。
2199のときも不満や問題を感じなかったわけではない。
前作も今作も僕は物語にはタッチする身分ではないから。
そうした気持ちに、出渕監督は、
不平や不満を口にするのではなく、
今、君は漫画を描いているのだから、
そういう手段を持つ人間は自分の筆で語ればいい。
好きなように描いていいから。
と笑顔で背中を押してくれた。
2202では今まで自分と相対化する手段を持ってなかったんだなと気づいた。
なんだかんだと自分の中でヤマトの存在はとても大きい。Novel01_00
もうすぐ第3章の試写会、そして来月の公開が控えている。
公開時にはノベライズも発売になるはず、
手にとっていただけたら、挿画を寄せている身としてはありがたい。

ヤマトの仕事の合間に
ディスクユニオンのフリーペーパー「レコードがある暮らし」からの依頼で
2頁ほど、アナログレコードとの出会いの寄稿をした。
拙作「虚数霊」のアナログ盤とオーディオを題材にしたエピソードを
担当者さんが読まれたことが依頼の発端らしい。
あのエピソードは幻冬舎版の連載時にはイメージはできていたけれど掲載できず
MF社のフラッパー誌での連載で実現できたもので、
自分でも好きなお話の一つ。
もうコミックスは在庫がなく、電子版なら読めるのかな。
「虚数霊」は未完のままなので、何かの形で続きを描きたい。
そう、虚数霊はさておき、寄稿はこのフリーペーパーのVol.3に掲載予定。
http://diskunion.net/recordlife/

ヤマト2199のコミック再開までの間、自分は何をするのか。
まずは続きの10巻のシナリオを早ければ10月には全部書いてしまうこと。
そして、どこかで漫画の仕事が出来るように、
いくつかの出版社とコンタクトを持っているところ。
前述のフラッパー誌からもお声がかかっている。
さあ、自分はどうしたい。
自分の航路は自分で決める。
それが自由業。

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